闇の中遠くから聞こえる音楽

 先日買っておいてそのうちに読もうと思っていた『ペット・サウンズ』を
読み出したら止まらなくなってしまいました。

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)


 
 私がビーチボーイズを聴くようになったのは、1990年代のことでした。その頃は既にブライアン・ウィルソンの仕事は再評価されはじめていました。
 同時にブライアン・ウィルソンの伝記も読みました。
 ヒットチャートにあがり続けるという周りからの期待と、自分の思うような傑作を作りたいというプレッシャーやから、ちょうど「ペット・サウンズ」のアルバム作成の頃にドラッグに手を染め、精神的にも肉体的にもキツイ状況に陥ってしまったのです。
 そんな状況下で製作されたアルバム「ペット・サウンズ」はこの世の物とは思えない美しい旋律、音の空間、繊細な響きが詰まっていて、すっかり虜になりました。

 その頃、いろいろ(職場のことなど)あって、不眠症になっていたのですが、神経内科でもらった睡眠剤は全然効かなかったので、毎晩毎晩布団の中で目を瞑りながら聴いたのが「ペット・サウンズ」でした。眠りにつきたいのに、つい、アルバムに聴き入ってしまい、また最初から聴き直すという繰り返しだったことを憶えています。
 ですから、「ペット・サウンズ」は私にとって闇の中から聞こえてくる音楽です。
 
 この本は作者自身もそうだったように、このアルバムと不安な気持ちを共有し合えたことを思い出させてくれました。

 私は運が良い事に、程なくブライアン・ウィルソンは活動を再開し、日本ツアーでブライアンの姿を見ることができました
 (この本の訳者である村上春樹氏と同じステージを見ていたようです)。

 でも、恥ずかしいことにこの本を読むまで私は「ペット・サウンズ」で歌われている世界をちゃんと理解していませんでした。


 村上春樹氏の訳では「I jast Wasn't Made For these Times」は「間違った時代に生まれた」というタイトルです。
 
 ブライアンの深い悲しみに胸が詰まりました。