いきなり蝉が鳴く

 久しぶりに朝から空が出ている。夏らしい強い日差し。この日を待っていたとばかりにに裏の家の庭から蝉がガンガン鳴いている。

 午後から市の図書館に向うが、夏休みに入ったためなのか、涼を求めてなのか、駐車場が一杯で入れない。そこで勤めていたときにいつも行きたいと思っていた、地元ゆかりの作家久米正雄の記念館へ行く。
 
 こちらは、来館者は私一人だけ。久米正雄に加えて、宮本百合子に関するゆかり作家の展示を見た後、久米本人が昭和2年に撮影した友人作家達(芥川龍之介菊池寛など)の映像を眺め、鎌倉から移築されたという和洋折衷の久米正雄宅の中にあるレファレンスルームで読書をした。

 読んだのは、『牧場の兄弟』という大正時代に書かれた戯曲で、舞台は郡山の畜産業の一家。兄は弟の妻に言い寄るわ、炭疽病にかかった牛の乳を密売するわ、従業員に姪の結婚話をちらつかせていいようにこきつかうわと、ストレートな悪役である。最後にすべて弟に知れることとなり、一気に崩壊に進むというみごとに通俗的な話。姪が嫁ぐことになっているお金持ちの「津野屋」は実在する店で、後年デパートになった呉服店である(現在デパートがあったところはリッチフィールドというビジネスホテルになっている)。
 この話はモデル問題でもめたと資料館にかいてあったが、この兄弟の名前が本人と同じかまたは推測されるような名前だったのかもしれない。事実じゃないとしても、大変な迷惑ですよ、それは。